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9月
9月

〜わが家のアン・テリ物語(5/6)〜

<今月の本>
ガブリエル・バンサン作 『アンジュール』、フィリッパ・ピアス作 『まぼろしの小さい犬』




 こうして、一匹の犬の放浪が、彷徨が始まるのでした。
 こんなふうに書いてしまうと、作者のガブリエル・バンサンに叱られそうです。
 「せっかく、私が、鉛筆の線だけで表現しようとしたのに!」
 (どうぞ許してください。)
 ともかく、この犬が最後に、ひとりぼっちの子どもと出会い、その子の胸にすがりつこうとしているところで、この絵本は終わります。

 バンサンの絵本は、他にも同じ出版社から出されていろいろありますが、私はやはり、白黒の線画で描かれている作品が好きで、『たまご』(解説・今江祥智)は、これも文字のない絵本です。これは、生き物の根源を問うような、鋭い文明批評にも満ちた、恐ろしいほどの凄味のある作品です。彼女はベルギーに生まれ、ブリュッセルの美術学校で学んだそうですから、ルネ・マグリットなどベルギーの幻想的超現実主義の絵画に影響を受けているのでは、などと想像しています。


まぼろしの小さい犬

フィリッパ・ピアス作『まぼろしの小さい犬』

(猪熊葉子訳/岩波書店刊)

 こちらは、何度もこのコーナーで紹介したフィリッパ・ピアスの、もう一つの名作です。犬が欲しくて欲しくてたまらない男の子のお話です。高価な子犬しか手に入りにくくなったり、広場や庭が少なく、空間的にも犬が飼いにくくなっているのは、東京だけでなく、ロンドンも同じ状況のようです。

 ロンドンに住む少年ベンは、5人きょうだいの真ん中で、何となく家にいても独りぼっちでした。郊外にすむおじいさんの家には、よく遊びにいって、自然の中で犬のチェリーと駆け回ったりして遊びます。おじいさんは、ベンの誕生日に子犬をプレゼントすると、約束してしまいます。大喜びで、何よりも楽しみにしていたベンに、おじいさんから、お詫びの手紙を額に入った小さな刺しゅうの犬の絵が届きます。本物の犬の代わりに。
 ベンはがっかりして、おじいさんを恨みます。

 おじいさんには、子犬を買うほどの余裕のないことを知っているお母さんは、なんとか落ち込んだベンの気持ちを引き立てようとするのですが・・・・・・。
 ベンは犬への思いが次々とふくらんでいき、ついには、「目をつぶらなければ見えないような小さな犬」が、見えるようになる(ちなみに、原題の”A DOG SO SMALL”とはそういう意味です)。ベンは自分にしか見えない犬を「チキチト」(それは刺しゅうの絵の犬の名前でした)と呼んだ。


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