エッセイと絵本紹介一覧へ 子どもの心と本の世界トップへ 図書館へ ホームへ ●HOME●
●図書館へ戻る●
●「子どもの心と本の世界」表紙へ戻る●
●エッセイと絵本紹介一覧へ戻る●
BR_LINE

1月
1月

〜新しい「隣人」の大切さ(3/6)〜

<今月の本>宮沢賢治作 『セロひきのゴーシュ』



《心に生きる今月の物語》

 昨年の連載を振り返って、すべてが外国の作品だったことに気がつきました。
 もちろん単なる偶然にすぎませんが、今月は「隣人」ということで、思い至る一冊として、われらが宮沢賢治の『セロひきのゴーシュ』をご紹介します。
 もちろん『宮沢賢治全集』(筑摩書房)にも入っていますが、あえて、絵本として出版されたものを取り上げてみたいと思います。


セロひきのゴーシュ

宮沢賢治作『セロひきのゴーシュ』

(茂田井武絵/福音館書店)

 絵本としては、他にも司修絵のもの(冨山房)もあり、こちらも原作の味を損なわず、優れた画家の感性で描かれた絵本といわれています(ただしすでに絶版で、図書館くらいでしか見つからないでしょう)。どちらかというと、そこにはいくぶん抽象化されたゴーシュの姿があります。

 茂田井武の絵本の方は、もう少し素朴で、しかし新鮮で、どこかとぼけたユーモアが感じられる絵です。私は星空の下、ゴーシュが大きなセロを抱えて田園の田んぼ道を行く場面など、なぜか故郷の風景を思い出します。そして、動物たちとゴーシュのやりとりが、実に活き活きと楽しく、ドラマチックで、文と絵が絶妙にマッチして表現しています。

 瀬田貞二さんの「あとがき」によると、茂田井武はこの絵本が出版された年の11月に、持病の喘息で48年の短い生涯を閉じたそうです。この絵本が、「画家の死去する年に実った、もっとも味わい深い収穫」といいきり、
 「(中略)同質の詩人の空想を、肺患と喘息とたたかう画家のいのちが堀あてたように、力強く具体化しました。」と述べ、さらに、
 「同じ波長の、ことなる名器の合奏が成就したように、私たちは、今はない二人の共感をこのまれな絵本という形で感ずることができるのです。」と称賛しています。


前のページへ 次のページへ
BR_LINE
Copyright (c) 1996-, Child Research Net, All rights reserved.