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―対談―
人類学と子ども 脳の巨大化とともに長期化した子ども期

小林 登×馬場悠男

4  ヒトの子ども期の特徴は早産と児童期の長さ

小林 子どもについて研究している人類学者はいませんか。

馬場 たとえばネアンデルタール人の子どもについて研究している人はいますが、多くはないですね。人類学は化石がないと話になりませんが、子どもの化石は見つかるのが稀なのです。

小林 子どもの骨は残りにくいでしょうね。石灰化が十分ではないですからね。

馬場 まさにおっしゃる通りです。でも、ネアンデルタール人の子どもの化石からはおもしろいことがわかっているんですよ。ネアンデルタール人は、我々現代人とは成長のパターンが違っているんです。たった2歳でも、手足の骨の太さはホモ・サピエンスの4歳ぐらいの子どもと同じなんです。長さはあまり変わりないので、がっちりした子どもだったことがわかります。たぶん、早く太ることで厳寒の氷期でも暮らしていけるようになったのでしょう。歯は磨り減っていないので、2歳半ばでも離乳はしていなかったこともわかっています。

小林 現代の人類の成長パターンは、どのように形成されたのでしょうか。

馬場 人類の脳は進化とともにどんどん大きくなっていきました。そのことが人類の成長パターンを決定づける要因になっていると思います。動物ですとふつうは胎児の間に急激に脳が大きくなって、生まれた後に緩慢になるのですが、ヒトの場合は生まれた後にも、脳の急激な成長が1歳ぐらいまで続きます。つまり、動物の一般的な基準から予測される妊娠期間よりも、ヒトの場合は1年ぐらい早産だということがわかります。大きな頭をもつ子どもを産むためにメスの骨盤は広がりましたが、それでも頭が一定以上大きくなる骨盤口を通るのが難しくなるので、脳が大きくなりすぎる前に産むという選択がなされたのだろうと思います。
 それから、ヒトの子どもで特徴的なのは、児童期が大変長いことです。6歳ぐらいで脳は大人並になるのに、体は大人の三分の二ぐらいの大きさのままでずっと留まっています。思春期のスパートが始まるまで、成長が押さえられている。これはホモ・サピエンスの適応戦略なのだろうと思います。
 児童期は学習が非常にスムーズに進む時期です。この時期には、学習に特化した生活をさせておいた方が効率的です。体の成長が抑制されていれば、食料の消費量も少ないですし、教育もやりやすい。他の動物に比べて大変手間のかかる戦略ですが、ヒトにとっては都合が良かったのだと思います。ホモ・サピエンスの成長パターンがそうなっているのですから、小学生や中学生に勉強をさせるのは、大変理にかなっているんです(笑)。

小林 これからは人類学の知見も参考にしながら、子育てについて考えていくべきですね。

馬場 古代人の子育ては、原点として参考になると思います。発達心理学や教育学ともつなげた議論ができるといいですね。たとえば、チンパンジーの子どもは、初めは母親にぴったりくっついていて、離すことはできません。アメリカなどでは小さいうちから自立心を育てるためにひとりで寝かせるとか言いますけど、私に言わせれば論外ですね。霊長類の子育てから言うと、添い寝するぐらいでちょうどいいと思います。

小林 まったく同感ですね。

馬場 ヒトだって、サルの一種ですからね。そのようなことを総合的に考えていければ、子育て環境も改善していくと思います。私はいま自分の孫を見て、改めて子どもについていろいろ発見をしているところです。子どもとは毎日一緒に生活しますから、なかなか変化に気づきませんが、孫はたまにしか会わないので、成長の変化に気づきやすいですね。

小林 これからはぜひ、人類学の観点から子育てのあり方についてご提言いただきたいと思います。今日はいろいろありがとうございました。

馬場 こちらこそ、ありがとうございました。



国立科学博物館・新館
2004年11月に国立科学博物館の新館が全面オープンしました。テーマは「地球生命史と人類」です。40億年前に生命が誕生し、変動する地球環境に適応しながら、多様な生物が進化していきました。その壮大な生命の営みを、できる限り実物の標本資料を体系的に配置することで、ダイナミックにとらえられるよう工夫されています。人類の進化のコーナーでは、恐竜の絶滅後に大発展した哺乳類の中から人類が生まれ、世界中に広がっていった様子をたどることができます。

所在地:東京都台東区上野公園7-20
開館時間:9:00〜16:30(入館は16:00まで)
休館日:毎週月曜日(日・月曜日が祝日の場合は火曜日)
入館料:一般・大学生420円 小・中・高校生70円
お問い合わせ:月〜金曜日 03-3822-0111 土・日曜日03-3822-0114
http://www.kahaku.go.jp


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