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―対談―
子どもを粗末にしない国にしよう〜社会的共通資本の視点〜

小林 登×宇沢弘文

2  「社会的共通資本」は世代を超えた財産

小林 宇沢さんは「社会的共通資本」という考え方のもとに経済を考えておられて、そこで教育や医療について触れられていますね。これはどういう概念ですか。

宇沢 一言で言えば、「誰にとっても等しく大事なもの」を「社会にとっての共通の財産」として大切にしようということです。いまは経済学を志す学生でも、経済学というと市場での営利追求のことだけを論じるものと考えていて、分配の公正や貧困の解消などを忘れていますが、もともと経済学の考え方の中に古くからある概念のひとつです。
 具体的には、「自然環境」「社会的インフラストラクチャー」「制度資本」の三つの大きな範疇に分けられます。教育や医療は、制度資本のひとつであり、どちらも一人ひとりの市民が人間的尊厳を保ち、市民的自由を最大限に享受するために必要不可欠なものと考えています。とくに重要なのは、「社会的共通資本」は自分たちの世代だけではなく、次の世代にも残さなければならないものだということです。

小林 実は、私は三年前に「日本子ども学会」という新しい学会を立ち上げました。子どもの成育環境の向上を願う人々が集まって、学際的に話し合おうという学会です。その中に、「チャイルド・ケアリング・デザイン」という、子どものための都市計画や環境づくり、社会制度や産業のあり方について論じるためのコンセプトを設けています。
 日本は子どもを大切にしていないというのは、宇沢さんのおっしゃる通りで、それを学問的な立場から解決していくにはどうしたらいいかを、私も模索している最中です。子どもが伸び伸びできる環境を、社会の構築の仕方から考えていきたいと思っているのです。

宇沢 すばらしいですね。小林さんはかつて東大時代に優れたクリニックをおつくりになった。喘息の子どもたちのために、周りの環境も考慮に入れた、対症療法的でないクリニックです。あれには感動しました。そういう良心的な活動をする人々の思いをきちんと反映させるための社会的装置が「社会的共通資本」なのです。

小林 宇沢さんに誉めていただくのは大変光栄ですね。ところで、この「社会的共通資本」を管理するのは誰なのですか。公的機関ですか。

宇沢 それが大変重要な点です。「社会的共通資本」は社会全体の共通の財産であり、人間が人間らしく生きていくために必要不可欠なものですから、利潤追求の対象として市場的な条件に左右されたり、国家の統治機構の一部として官僚的に管理されてはなりません。
 例えば、難病の子どもたちへの医療をコストの観点だけから考えることなどできませんし、人間的な対応が不可欠のケアを、政府によって規定された基準やルールによってマニュアル化することもできません。医師が必要と感じた医療は、コストや管理制度にとらわれることなく、適切に実施しなくてはならないはずです。
 これは教育もまったく同じで、子どもへの投資がどのように経済的に社会還元されるかという観点から教育を考えてはいけないし、多様な子どもたちの個性を官僚的な画一化したカリキュラムによって管理してはならないと思います。教師がその子どもの資質を伸ばすために必要だと思うことは、すべてやればいいのです。
 つまり、「社会的共通資本」は、それぞれの分野の専門家たちの知見や職業的規律に基づいて、国家からも市場からも独立した形で、市民の基本的な権利の充足という見地だけから運営管理されるべきなのだと思います。



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