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―対談―
子どもを粗末にしない国にしよう〜社会的共通資本の視点〜

小林 登×宇沢弘文

3  安倍能成先生の演説に深い感銘を受けた

小林 宇沢さんの言われるように、専門家の知見や職業的規律が大切だとすると、その専門家を育てる高等教育機関の役割が、大変重要になってきますね。

宇沢 おっしゃる通りです。小林さんと一緒にいると、どうしても昔話をしたくなるのですけど、戦後マッカーサーが厚木に降り立ってすぐの頃に、一高にジープで占領軍が来たことがあったんです。小林さんは、まだ一高にはおられなかったですよね。

小林 私は翌年ですね。

宇沢 では、見ておられませんね。一高を占領軍の施設として接収するために来たのです。  その時に校長だった安倍能成先生が、その占領軍に対して、「この一高はリベラルアーツの学校である。リベラルアーツとは人類が残してきた芸術、文化、学問のことであり、ここはその偉大な遺産を次の世代に伝える sacred place (聖なる場所) だ。そこを占領などという vulgar (世俗的) な目的のために使わせるわけにはいかない」と言って、追い返したのです。私は深い感銘を受けましてね。

小林 安倍先生は大変毅然とした方でしたね。

宇沢 すばらしかったですね。当時、絶対的な権力を持っていた占領軍に対して、教育者の倫理観から立ち向かわれたのですから。

小林 安倍先生は、後に幣原喜重郎内閣で文部大臣になられましたね。

宇沢 そうです。当時アメリカは日本政府に対して大変厳しい要求をしていましたが、安倍先生はアメリカの教育使節団が来たときに文部大臣として感動的な挨拶をされました。「日本は過去における占領政策においてきわめて多くの失敗をした。その国の伝統と実情を無視し、自分勝手な政策を力によって強いたからだ。米国は日本が犯したのと同じ間違いを繰り返さないでほしい」と言われたのです。会場は割れんばかりの拍手で、使節団の団長は壇上に飛び上がって、安倍先生に握手を求めてきたそうです。
 そのアメリカの使節団は、アメリカでジョン・デューイのお弟子さんだった方々なのです。つまり、当時のもっともリベラルな教育を受けていたのです。だからこそ、安倍先生の信念に共感したのだと思います。
 安倍先生は、子どもの世代のことをすでに考えられていたのだと思います。教育者として次の世代のために何を残せるのか。安倍先生はご自分のお子さんを栄養失調で亡くされていて、それだけに先生の言葉には重いものがありました。
 私は「社会的共通資本」を管理運営していくには、専門家の知見や職業的規律が大切だと言いましたが、そのような専門家を育てるためには、安倍先生が命がけで守ろうとしたリベラルアーツに基づく高等教育が大変重要だと思っています。すなわち、専門的な知識や技術が、高い倫理観や優れた人間的資質に裏打ちされるということです。そのような専門家でないと、社会の共有財産である「社会的共通資本」の管理運営を任せることはできません。


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