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―対談―
子どもを粗末にしない国にしよう〜社会的共通資本の視点〜

小林 登×宇沢弘文

4  個人的に接した人から人の大切さを学ぶ

小林 宇沢さんの「社会的共通資本」という考え方は、新しいものだと思っていましたが、むしろ私たちの世代にとっては懐かしいものかもしれませんね。

宇沢 当たり前のことなのですね。人を粗末に扱わないということですから。貧困を解消したい。子どもの資質を伸ばしたい。人々の病気を治したい。子どもが伸び伸びと遊べる町をつくりたい。自然を大切にしたい――社会的共通資本の考え方は、より人間的な、より住みやすい社会をつくるためにはどうしたらよいか、という問題を経済学の原点に立ち返って考えようという意図のもとにつくり出されたものです。ですから、官僚制度や市場原理のような非人間的なもので、それを実現しようとするのはもともと無理なのです。私はそれを経済学的に証明したいと思っているのです。

小林 宇沢さんは『経済学と人間の心』というタイトルの本を書かれていますが、人間の心を大切にした経済学も可能だということですね。

宇沢 フリードマンの考え方に代表される経済学は、小林さんの医学とは違って、蛇蝎のごとく嫌われるものでね。そんな経済学に反発して書いたのがあの本ですよ。
 もともとの経済学では、アダムスミスのように人間の心を問題にする人もいましたが、新古典派理論による近代経済学では、人間の心は経済とは何の関係もないということで、問題にされません。マルクス経済学にも人間がいなくて、階級しかありません。

小林 宇沢さんはもともと医学部志望だったそうですが、本来はあなたが医者になるべきだったのかもしれない。しかし、あなたはいま社会のお医者さんとして治療をなさっているのだと思いますね。ところで、子どものことを取り上げる経済学というのは、歴史的にはないのですか。

宇沢 ケインズの弟子でジョーン・ロビンソンという学者がいるのですが、彼女は経済学の論文を書くときには子どものことを考えながら書けと強調されていました。でも学問の理論的な枠組みには入ってこないですね。

小林 入ってもいいような気がするけれど、ダメですか。

宇沢 近代経済学では、価格のつかないものは扱えないのですよ。自然環境にしても子どもにしても同じです。値段がつかないし、市場でやり取りできないものでしょう。だからいつの間にか粗末に扱われてしまうのです。社会の共有財産は、自由財として好き勝手に利用するものではなくて、皆がもっとも大切に守らないといけないものなのですけどね。

小林 人を大切にするために、これからの世代の人たちが学ばなくてはならないことは何だと思われますか。

宇沢 難しいことではないですね。個人的に接した人から、人を大切にすることの価値や喜びを学んでいくことですよ。自分のおばあさんでも、近所の人でも、友達でも、誰でもいいから大切にしてあげることです。私は教師や医者は聖なる職業だと思っています。そういう職業を目指す人は、そのことを心してほしいですね。

小林 今日は良いお話をありがとうございました。ワインもチーズもとてもおいしかった。

宇沢 こちらこそ、ありがとうございました。


2005年11月22日 宇沢邸にて


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