CRNのロゴマークトップ 図書館 CRNイベント English/ Chinese
手を繋ぐ人々のイラスト
crn設立10周年記念国際シンポジウム
子ども学から見た少子化社会−東アジアの子どもたち−
   
2007年2月3日(土)10:00〜16:30
会場 ウ・タント国際会議場(国連大学ビル)
主催 チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)
共催 (株)ベネッセ次世代育成研究所、 (株)ベネッセコーポレーション
後援 厚生労働省、中国大使館、韓国大使館、日本子ども学会、日本赤ちゃん学会
 
  top   企画意図   プロフィール   講演要旨   講演録   リンク  
 
 
講演録
韓国における少子化と低出生体重児出生比率の影響
朴 正漢(Park Jung Han)



T 激減する韓国の出生率

 韓国の合計特殊出生率 (TFR) は、1960年代から1970年代にかけて、急速な工業化と政府の強力な家族計画政策により大幅に減少しました。1960年には6.0だったのが、1970年には4.53、1980年には2.83へと低下しています。その後、1985年から1995年までは1.6あたりで落着いていました。しかし、2000年になると再び減り始め、2005年には1.08を記録します。これは、少数の都市国家を除くと、世界で最も低いTFR値になります。このような出生率の激減には、2つの大きな直接的要因が挙げられます。<図1>

<図1>

 まず、1つ目の要因は、男女ともに結婚を先延ばしするようになり、初婚年齢が高くなったことです。<図2>

 2つ目の要因は、結婚後の出生率の低下です。特に、20代前半での出生率が大幅に下がりました。しかし、興味深いことに、30代の出生率がわずかながら増えています。このような変化は、出産年齢、回数の分布を変えました。例えば、1995年には、20代女性が産んだ赤ちゃんが全出生児の75%を占めていましたが、2004年になると、その割合は50%を切りました。その一方、30代女性が産んだ赤ちゃんの割合は25%から50%に増えました。<図3>


<図2>

<図3>

U 低出生体重児増加の要因

 同時に、低出生体重児が少しずつ増えていることも認められました。1995年は3.0%でしたが、2005年には4.3%に増えています。また、多胎出産にも増加傾向が見られました。同じく1995年から2005年までの期間で、1.3%から2.2%まで上昇しています。<図4>
 出生体重は新生児の健康を示す重要な指標です。なぜなら、新生児死亡率を見ると、2500g未満の低体重で生まれた赤ちゃんは、2500g以上で生まれた赤ちゃんの約20倍にもなります。また、誕生後の発達段階においても、精神遅滞など神経学的後遺症の発生率が高くなります。

<図4>

 出生体重は多くの要因と関連しています。低出生体重児の増加にはさまざまな要因がどのように影響し合っているかを知るために、私は理論的枠組みを構築しました。<図5>

<図5>

 主な要因は出産年齢と回数です。社会的、経済的、文化的環境の変化のため、若い人たちは結婚を先延ばしにし、妊娠の頻度が少なくなりました。その結果、出産年齢が上がり、出産回数は減っています。これは即ち、赤ちゃんの出生時体重の減少を意味します。といいますのも、高齢出産は、低体重のリスクが高いからです。男性も女性も年齢が上がると、生殖能力は低下します。30代での結婚後に赤ちゃんを望んでも、生殖能力はすでに下がっています。子どもを授かることは簡単ではないとわかると、IVF(体外受精)のような生殖技術に頼ることが多くなりますが、その場合、多胎妊娠の可能性が高くなります。多胎妊娠であれば、未熟児が発生する割合が非常に高く、結果的に低体重となるわけです。
 その他の要因として、環境汚染と、ダイエットや喫煙などの母親の行動様式の変化が挙げられます。いずれも、低出生体重児発生率の増加につながっています。それぞれの要因が低出生体重児発生率の増加にどのように影響しているのかについては、分けて考える必要があります。次の表は、低出生体重児発生率と出産年齢、回数との関係を示しています。<図6>

<図6>

 網掛けのセルは、低出生体重児発生率が全体平均の2.9%より少ない出産年齢・回数別グループを示しています。その他のセルは全て、低出生体重児の発生率は全体平均より高くなっています。お気づきになると思いますが、20代女性が産む第1子の数値は非常に低く、20代および30代初めの女性に生まれる第2子、20代後半と30代前半の女性が産む第3子も好ましい結果となっています。しかし、30代前半および後半の女性が産む第1子は、低体重である可能性が非常に高くなっています。

 ここで、1995年から2005年の間に起こった、出産年齢・回数分布の大きな変化の影響を確認しましょう。<図7>の網掛けのセルは、<図6>で示された低出生体重児の発生率が平均より少なくなっているグループです。しかし、1995年と2005年とを比較すると、2005年には2つのセル(30−34歳 第2子以降出生の場合)を除き全て比率が下がっています。これに対して、網掛けのないセルは、<図6>で見た通り低体重発生率が平均より高い比率を示すグループですが、2005年には30歳以上で数値が上がっています。こうした変化により、低体重の発生は全体では増えていると考えることができます。<図7>

<図7>

 次に、低出生体重児の増加に対する各要因の影響を分析してみました。<図8>
 まず、単胎出産は、多胎出産より低出生体重の可能性が低いことは明らかです。前述のように、多胎妊娠は1995年と2005年の間に増加しました。そこで、私は全ての出産を、単胎出産と多胎出産という2つのグループに分けました。まず単胎出産について、出産年齢・回数の変化が低出生体重児の増加に及ぼす影響を分析し、さらに出産年齢・回数の変化が低出生体重児の全体的な増加にどのような関連があるかを導き出しました。同様な方法で、多胎妊娠についても分析しました。

<図8>

 分析に用いた計算の論理はいたってシンプルです。皆様にご理解いただくために詳しく説明するとなると、20分はかかりますが、私の分析の核は、非常に一般的な統計的方法、いわゆる直接調整に基づいて構築した計算式です。直接調整は疫学研究において使用されています。出産年齢・回数の数値を計算すると、その変化が低体重発生の増加につながったことが導き出されました。

 さて、1995年から2005年の間に、低出生体重児の発生率は1.3%増え、増加は歴然としています。このうち半分は単胎出産、もう半分は多胎出産で生まれています。さらに単胎出産の半分が、出産年齢・回数の分布の変化によるもので、実質的には、出産年齢の上昇を意味し、もう半分は何歳で第何子を出生するかに起因しています。
 また、多胎出産での発生は、もっぱら出産年齢の上昇によります。これは、出産年齢の上昇が低出生体重児発生の主要要因となっていることを意味します。そのうち4分の1は、出産年齢、出産経験別発生率によりますが、以前は理由付けが困難でした。


V 低出生体重児増加への対処法

 しかし、幸運にも去年、これに関連する2つの興味深い研究データを見つけました。
 1つは、政府による健康と栄養に関する調査データです。韓国の女性の身体構造が変化し、二極化されていることを示していました。特に20代、30代の女性に言えることですが、痩せすぎのグループと、太りすぎのグループに分かれるのです。どちらも、妊娠の状況は好ましくありません。近年、韓国女性は痩せていることを望むあまり、不適切なダイエットを試み、低体重を保とうとするので、低出生体重児の発生率が高くなっています。
 もう1つは、最近発表されたもので、大気汚染と早産との関連づけがなされた研究です。出生体重への影響の度合を測ることは難しいのですが、韓国の大都市における大気汚染が深刻な問題であることは周知の事実です。

 これら研究結果に基づき、低出生体重児の増加への対処法を考えてみました。
 まず、1つ目の対処法は、女性の適切な年齢における結婚と出産を促すことです。そのためには、適切な年齢で出産する重要性について情報を与え教育することが必要です。過去、韓国政府は、「人口3000万を目指せ!」と唱え、強力な家族計画キャンペーンを行いましたが、5000万人に近づくまでに増加すると「2人では多すぎる」「子どもは1人だけにしましょう」と方針を変更しました。しかし最近では「子どもはもっと必要だ」と唱えています。そこで、私が1996年に設立した韓国母子健康学会は、「1、2、3運動」を始めることを提案しました。「1」は結婚後1年以内の妊娠を意味します。「2」は「子ども2人」を指します。そして「3」は女性は35歳までに出産を、という意味です。当初、私は35歳ではなく30歳と言っていましたが、このキャンペーンをウェブサイトで発表したところ、若者世代から多数の批判が寄せられたので、再検討して30歳から35歳に変更しました。<図9>

<図9>

 次に、2つ目の対処法は、単一胚移植です。韓国では、体外受精(IVF)が不妊カップルの間で非常によく行われています。<図10>

<図10>

 IVFの成功率を上げるために、複数の胚が使われた結果、多胎妊娠となります。2000年には、10000件以上の体外受精が行われ、その中の90%が複数胚の移植でした。その中の30%強が多胎妊娠になり、さらにその中の50%が早産で、低体重となりました。このことは、スウェーデンで実施されている単一胚移植のように、単一胚の使用を進める規定を設ける必要があることを示唆しています。韓国が今直面しているのと同じ問題を抱えていたスウェーデンは、2002年に規定を設けました。実施開始後14か月間での効果は次のようなものでした。<図11>

<図11>

 単一胚移植の割合は25%から73%に上がり、その結果、多胎妊娠の比率は23%から6%に減りました。一方、臨床妊娠の率は33%から37%で安定していました。

 最後に、3つ目の対処法は、ハイリスク児のための新生児ケアシステムです。どのような方策をとっても、一定の数のハイリスク児は生まれます。すなわち、低出生体重児が生まれるということです。韓国では、ハイリスク児をケアする新生児集中治療ベッドが不足しているので、病院を支援してベッド数や人材、ハイテク機器を増やす必要があります。先ほど申し上げましたように、韓国の女性は不適切なダイエットを試みて、異常なまでに低体重を保とうとするため、健康な赤ちゃんを産めない事態も起きています。女性たちに、体重管理に関する正しい情報を与える必要があります。

   
Copyright (c) 1996-, Child Research Net, All rights reserved.
このホームページに掲載のイラスト・写真・音声・文章・その他の
コンテンツの無断転載を禁じます。