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小林登文庫


育つ育てるふれあいの子育て
第6章「母乳哺育のすすめ・・お母さんのオッパイは自然のおくりもの−6」


母乳哺育の赤ちやんはのんびりとした性格に育つ

 これまで母子相互作用という立場から、母乳と母乳哺育のすばらしい点をいくつかみてきましたが、まとめの意味もかねて、母乳哺育が赤ちゃんの体にどんな影響を与えているか、逆に母親の体にとってはどうかということを述べてみたいと思います。
 まず、赤ちゃんの体のなかでおこっているふたつの重要な点を指摘しておきたいと思います。
 第一点は、母乳で育てても人工乳で育てても血液中の血糖値は同じですが、母乳哺育のほうがインシュリンの値が低いということです。
 2人の赤ちゃんが、それぞれ母乳と人工乳をのみはじめてからの、240分間(4時間)の血糖値とインシュリンの高さを測定してみると、血糖値はほとんど差がないのに、インシュリンの値は母乳をのんだ赤ちゃんのほうが出方が少ないということがはっきりわかるのです。
 ということは、粉ミルクで育てられた場合には、母乳で育てられたと同じ血糖値を維持するために、より多くのインシュリンをださなければならないということを意味しています。母乳では、楽に生活できるということになります。
 ミルクではそれだけ無理をして、糖のバランスをとるために、血糖を低下させなければならないわけです。そういう無理な調節作用が、将来どういう影響を与えるのか、はっきりわかってはいませんが、不自然であるということだけはいえそうです。
 第二点は、母乳で育てられたほうが、あきらかに便秘が少なく、「お通じ」がよいということです。
 便秘はいくつかの要因が重なって引きおこされるものですから、いちがいにはいえませんが、やはり粉ミルクと母乳とでは腸の反応が違うのです。昔は、粉ミルクで育てられた赤ちゃんで便秘のため痔の手術をうけなければならなくなることが例外的にありました。
 そのほか、母乳で育てられた赤ちゃんと人工乳で育てられた赤ちゃんとを比較すると、母乳組のほうがわりあいのんびりとした性格に育つということもいえるようです。たとえば私が国立小児病院の研究センター長をしている時は、心理研究のグループが、母親に赤ちゃんを抱いて研究室にきてもらい、赤ちゃんだけ部屋に残して、お母さんには外へでていってもらうといった実験をしたことがあります。
 母親がいなくなると、火がついたように泣きだす子がいますが、それはだいたい人工乳で育てられている赤ちゃんに少なくありません。母乳組は、あまり激しい反応をしないようです。おそらく「お母さんはちょっと外へでただけで、必ずもどってくる」といった自信をもっているのではないでしょうか。
 それは毎日の母乳哺育でスキンシップが十分に行なわれているため、赤ちゃんが母親に抱いている基本的信頼が強くなっているからだと推測できるのではないでしょうか。さらには、母乳中に精神を安定させる物質が存在するのかも知れません。また、体が血糖調整や便通なども無理をしないですむからかもしれません。

母乳哺育は母親自身の健康にも効果的

 さて、一方、母乳哺育が母親の体に与える直接・間接のメリットを考えてみると、およそつぎのような点があげられると思います。
 第一は、産後の母体回復が自然に行なわれるということです。赤ちゃんが乳首をすうと、オキシトシンというホルモンが分泌されます。このホルモンは乳腺組織を収縮させて母乳を外へ押しだす働きがあるとともに、子宮も収縮させます。その結果、胎盤のでてくる後産を早めるばかりか、産後、子宮をもとの大きさにもどすのにも役立ち、出血を最少限度にとどめるという役割もはたすのです。
 第二は、母乳哺育中は、排卵をおさえて、自然なかたちで避妊できるという利点です。もちろん、完全ではないようですが、これもひとつの自然のメカニズムといってよく、砂漠の遊牧民族のなかには、できるだけ母乳哺育を長引かせ、しかも頻繁に乳首をふくませて、つぎの妊娠までの時間稼ぎをするケースもあるそうです。
 第三は、妊娠中の体重増加が、母乳哺育を終えるころには、すっかりもとどおりになるということです。妊娠中にためこんだよけいな栄養分は、母乳としてすっかり赤ちゃんに引きつがれると考えてよいのです。
 第四は、決定的とはいえませんが、赤ちゃんをもつ女性、とくに長いあいだ母乳を与えた女性は、がんにかかる傾向が少ないという報告もあります。
 以上のほか、数えあげればまだあると思いますが、とにかく母乳哺育は、妊娠・出産・育児といった生殖サイクルの最後の段階です。
 ですから、オキシトシンで、子宮も収縮し、出産後の母体の修復を早めます。最後の段階だけ、自然にそなわった母乳を使わず粉ミルクに頼るというのは、やはりどこかおかしいのだと感じなければなりません。
 粉ミルクは、病気などにより、不幸にして母乳がどうしても与えられない、あるいは仕事の都合で母と子のための、「緊急避難用」のものだと知るべきではないでしょうか。赤ちゃんが生まれてからは、可能なかぎり、母乳を与えるべきだと思います。どんなに時間が短くても。


このシリーズは「育つ育てるふれあいの子育て」(小林登著・風濤社 2000年発行)の原稿を加筆、修正したものです。


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掲載:2004/03/12