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Vol. 19, No. 12, December 2003
1. 女の子に見られる社会的攻撃性の回避と緩和

女の子に見られる社会的攻撃性の回避と緩和

マリオン・K. アンダーウッド博士、テキサス州立大学ダラス校

 女の子は、非情なまでに意地悪になりうる。暴力を振るうことはまれだが、社会的な、あるいは対人関係を対象とした攻撃にはしって、互いに傷つけ合うことがよくある。社会的攻撃とは、友情や友達の立場を傷つけることを意図した行為であり、言葉と言葉以外の手段による仲間外れ、友情をもてあそぶ、悪意のある噂を流す、などの行為が挙げられる。女の子も男の子も、攻撃的になる頻度は同じだが、女の子の方が攻撃を受けた時の傷つき方や不安が大きいと思われる。女の子が一番大切にしている、友達との親密な関係が傷つけられるからである。攻撃をする子どもは、仲間達から拒否されがちで、孤独や鬱、不安を訴える傾向が強い。そして、大人になってからも、摂食障害や境界性人格障害にかかるリスクをかかえていると考えられる。社会的攻撃の犠牲者は、おそらく女の子に多く見られるが、他の友達に比べて、あらゆる面において自分に自信がなく、鬱や不安をより頻繁に感じている子供である。最近、悪質な行動にはしる少女達についてメディアが大きく取り上げたこともあって、保護者、教師、臨床医などが、こうした社会的攻撃の回避や緩和を促すプログラムの必要性を訴えるようになった。しかし、そのような攻撃をなくすための取り組みは難しい。ほとんどの場合、全貌が捕らえにくく、大人の手の届かないところで起きているからである。実際、少女達は、大人の介入は事態の悪化を招くにすぎないと思っている。現在実践されている介入プログラムのほとんどは、社会的攻撃性の発達モデルに基づいたものでも、観察によってその効果が立証されているものでもない。攻撃性を緩和、回避するプログラムを一から新しく作り出す必要はなく、暴力やいじめを扱った既存の回避プログラムを社会的攻撃にも転用できるよう修正することが可能であろう。プログラムを効果的なものにするには、攻撃をやめさせたり回避したりするための具体的な方策が必要である。そしてその方策を練るために、研究者は、攻撃が起こった時の詳しい状況や、その攻撃の進展にともなう正確な状況変化のプロセスについて、もっと多くを知らなければならない。

効果的な介入
 最近の研究のなかで、効果的な介入プログラムを実施するための興味深いヒントが紹介されている。以下に述べるのは、攻撃の起こる経緯や相関関係についての実際の研究に基づいた提案であり、親や教師、臨床医にとって貴重なガイダンスとなっている。幼い子供達への介入方法から順を追って、子供の発達段階に応じた構成になっており、男の子同士や女の子同士で起こる友達への攻撃を緩和させるのに効果的である。就学前の子供は、他の攻撃的な行為に比べて、いじめなどの社会的攻撃を悪いことや罰せられるべきこととは思っていない。そのため、大人はそのような幼い子供達に対して、人を攻撃することは許されることではなく人の心を傷つけるのだ、ということをはっきりと伝えることが大切であろう。人を攻撃することは危険で悪いことだと大人は思っている、ということを子供が理解すれば、自分が攻撃を受けた時に進んで大人に助けを求めるだろう。そして、教師がそこに介入する機会も増えるのではないだろうか。就学前後の子供達においては、夫婦間に起こる独特ないさかいを目の当たりにすることによって社会的攻撃を学ぶ傾向がある。このことを親に気付かせるのも大切である。少女達の攻撃性は、離婚した両親の対立に巻き込まれて起こることがある。相手を無視する、自分に味方を作る、関係を終わらせる、愛情を捨てると言って脅すといったように、大人がいさかいに決着をつけようとして相手を傷つけるのを見て、子供達は社会的攻撃の持つ力を学ぶのかもしれない。就学後の子供には、状況を肯定的に解釈させることで攻撃性を緩和することも可能だろう。攻撃的になる子は、人間関係で腹立だしいことが起きると、敵意をむきだしにする傾向にある。攻撃性を緩和する一つの方法としては、認知療法の手法を利用して、子供達に対し、今置かれている状況について他の解釈の仕方はないか尋ねたり、自分が知らず知らずのうちに極端に否定的な考え方をしていることに気付かせることで、もっと肯定的な解釈に導くことが挙げられている。

主張訓練法
 仮に、小児期中頃に見られる社会的攻撃性が怒りの感情と優しくしたいという感情の狭間で起こるものだとしたら、その一つの解決策として主張訓練法があるだろう。この方法は、少女達に自分の要求や目的を率直に表現することや、いさかいが起きるのは自然なことで、むしろ親密な関係の一部なのだということを教える。少女達は攻撃的な友達に対してひどい嫌悪感を抱く。その嫌悪感を生かすことで、少女達がもっと直接的にいさかいを解決する方法を学ぶきっかけにするのだ。そうすることで、社会的攻撃がどのように相手を傷つけ、攻撃した本人の印象を悪くし、友達皆の信頼を損ねていくか、短期的には復讐心を抱かせ、長期的には仲間はずれや信用の失墜を招くものであることを、親や教師、臨床医は少女達とより積極的に話し合うことができる。少女達が攻撃的になるのは、帰属感を確かめようとするからである、という研究結果や発達理論がある。少女達の攻撃性を回避するためには、彼女達に様々な活動を提供し、自分達が受け入れられていると思える環境を与える方法が効果的である。今までは、女の子達が学校で参加できる活動には限りがあったといえるかもしれない。そのことが彼女達のなかに、帰属できるのは一つのグループしかない、そのグループに入るか入らないかの二つに一つだ、という考えを生じさせたのだろう。もしも彼女達が、早い時期から演劇、音楽グループ、ボランティア団体、学習グループなど、いろいろな分野の活動に参加できるとしたら、帰属感を味わえる機会はもっと増えるだろう。より多くの活動の場を少女達に与えることは、社会的攻撃の防止に関連して、他の役割も果たすようである。事前調査のために集まったオーストラリアの中学生(10年生)の回答によると、社会的攻撃性の一番の要因は退屈を紛らわすためだということがわかった。北アメリカで行われた時間の使い方に関する研究によると、少女達が友達と会話をする時間は1日2.5時間だという。この時間は成長過程において絶好の社交の場を作り出す一方、高い確率で社会的攻撃が起こりうる場をも作り出す。そこで、自由にできる時間の割合を増やした上で、自発的な活動をする時間を増やしていけば、自分の才能を伸ばすこともできるし、退屈しのぎのために友達関係をもてあそぶようなこともなくなるだろう。様々な活動の場を与えることで、少女達は健全な競争心や、反対意見を極端に個人的に受け止めることなく目的を追求していくことを学んでいく。

仲間による介入
 少女達の社会的攻撃をなくすために最も効果が期待できる方法は、悪口が広まるのを断ち切るなど、攻撃にあっている子を友達同士で自発的に守ってあげる方法を教えることである。いじめに関する最近の研究によると、いじめに関わる子供には、いじめっ子といじめられっ子の他に、いじめっ子に味方する者、いじめをあおる者、傍観者、そしていじめられっ子を弁護する者など、いろいろな役割があるという。その中で、弁護役になるのはたいてい女の子で、友達の間でも影響力のある子供である。ここで紹介する介入プログラムでは、いつも弁護役を引き受けている子供の中でも友達に対して影響力のある者に対し、攻撃が起きた時、特に大人がとらえきれない状況で起きた時に使えるように、具体的な介入方法を教える。子供達は攻撃をやめさせるために実際にどうすればよいのか?まず、子供達の悪口がどのように広まっているのかを注意深く分析する。悪口はほとんどの場合、1人が批判的な事を言い、他の子供達がそれに加わることによって最初の悪口に拍車がかかり、時には誇張される。しかし、最初に発せられた悪口に異議を唱えれば、その後の発言は否定的なまま続くことはない。悪口や仲間外れが起きたらすぐに、仲介役になれる影響力のある女の子達に、悪口に対して異議を唱える方法を教える。女の子には、優れた対人能力がある。社会的攻撃を緩和、回避するための方法を考え出す時、その能力が発揮されるのだ。女の子は男の子よりも、より深い親密さ、誠実さ、依存を友達関係に求める。だから、攻撃をやめさせるために一生懸命になるのも不思議なことではない。女の子の多くは話術にたけていて、社会的知能も高いので、複雑な状況を深く考え抜き、友達の間に介入するための方法を磨くことができる。社会的攻撃を緩和、回避するためのプログラムを効果的にするには、少女達の言葉を繰る能力や社会的知性、いじめられっ子に対する思いやりの心、いじめっ子への敵対心、介入に関わる子供達の性格的傾向などを、注意深く創造的に活用していくことが大切である。


マリオン・K・アンダーウッド博士は、テキサス州立大学ダラス校、行動と脳科学学部、心理学科の助教授である。ここで述べた介入方法については、最新本 “Social Aggression among Girls” (2003年出版)の中でさらに詳しく論じている。


The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter, December 2003
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