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Vol. 21, No. 7, July 2005
1. 拒食症の治療に親の参加は有効か、それとも妨げとなるか?

拒食症の治療に親の参加は有効か、それとも妨げとなるか?

ジェームズ・ロック 医学博士
ダニエル・レ・グレーンジ 博士

 自分の息子や娘が拒食症を発症した時、親はどのように接するべきか戸惑う。無理もないことだ。

 始めのうちは、思春期によく見られるダイエットへの単なる好奇心だろうと思っていたのが、みるみるうちに衝撃的で、異様な症状になり、あげくの果てに致命的な状態に変わっていくのである。少し前までは、穏やかで従順だったわが子が、特に、食事に関して、気力を失い、イライラし、反抗的になるのだ。そして、最も親を悩ませているのは、「関わってはいけません。子どもの判断に任せなさい。親は状況を悪化させるだけです。」という専門家の言葉である。

 拒食症の若者を治療する場合、その治療法や状況に関わらず、親や家族は治療から外され、しかも、その問題の発端と見なされることが多かった。実際に、若者が拒食症で入院治療を受ける場合、親との面会は厳しく制限されてきた。また、当分の間、わが子にいかなる連絡を取ることも許されないことが多かった。

治療から外される親

 このような「親を除外した」治療は、拒食症の原因とされていた、子どもに対する親の病的な支配欲を断ち切る良い機会だと考えられていた。こうした見解は、実証的なものではなく、理論に基づくものであった。拒食症の治療は、精神科医療の現場において精神分析が主流だった時代に発展した。拒食症は、子どもの性的欲求や不安などをめぐり、深刻な機能不全におちいってしまった両親との関係への反動として起こると考えられていた。この考え方に則って、患者は単独で治療を受け、親との関係において作用している破壊的な力を見つめ直すように促された。

証拠が示すこととは?

 医学的にも心理学的にも拒食症は明らかに深刻な問題であるが、その治療法を探る研究がほとんど行われていないことが問題をさらに悪化させている。科学的な根拠が欠如しているために、セラピストは、拒食症に対する治療指針をほとんど得られないまま、実証的アプローチよりも理論的アプローチに固執してきたのである。

 しかし、興味深いことに、拒食症を引き起こしたのは親や家族であり、彼らは治療に対して無力であるとしてきた既存の理論に真っ向から対立するアプローチを概ね支持する科学的根拠がある。その科学的根拠は、1980年代初頭、ロンドンのモーズレイ病院で行われ、現在も様々なところで用いられている一連の家族療法の研究結果に基づいている。

 それらの研究でとられたアプローチとは、拒食症が子どもや家族に引き起こしている問題に取り組むために、家族、特に親に力を与えることを目的とした家族療法である。最も大切なのは、親は家族の状況を考慮し助言をしてあげることでこうした問題の解決を探るようにするように勧められることで、家族に対して持ち得る強い支配力は断固として押さえ込むように教えられる。こうした「親の存在を肯定的に」とらえた治療法を検証した研究から、このアプローチは効果的であり受け入れられやすいという結果が得られている。

親はどのように関わることができるのか?

 親がどのように治療に関わっていたらいいか、よりバランスのとれた見解を提供出来るようにする必要がある。親には、子どもの治療からの疎外を拒むことを勧める。子どもへの愛情や献身からくる親だけが持つ力によって、親は専門家が思いもよらない発想や手腕を発揮できるかもしれないからだ。

 家族の力を必要とする家族療法が拒食症の若者の治療に最も効果的だと最終的に証明されるためにはまだ多くの課題がある。それを判断するための研究は、ようやく動き出したところだ。しかし、家族、特に親を治療から疎外する必要はないということは、既に明らかである。

親は、治療の妨げになるどころか、むしろ助けになるようだ。


The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter, July 2005
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