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Vol. 22, No. 4, April 2006
刺激剤はなぜ「ブラックボックス警告」適用の危機に直面しているのか

刺激剤はなぜ「ブラックボックス警告」適用の危機に直面しているのか

グレゴリー・K.フリッツ 医学博士

中枢刺激剤(以下刺激剤)を使う薬物療法に対して「ブラックボックス」警告の表示を義務づけるよう勧告した米食品医薬品局(FDA)諮問委員会の最近の決定が、結果的には、本来の意図とは違った理由で有益な効果を生むかもしれない、という奇妙なパラドックスが生じている。

FDAは、薬物療法を受けている患者に見られる刺激剤による薬物療法と突然死あるいは深刻な心血管障害の関係性を調べる研究戦略を探るため、最近の事例を検討する諮問委員会を召集した。データによると、注意欠陥多動性障害 (ADHD)に対する薬物療法を受けている患者のうち、1999年から2003年の間に25件の突然死があった。そのうち19件の患者は子どもか十代の若者だった。

FDAは、以下のような重大な疑問の数々について、さらなる研究が必要であることを認めている。1)薬物療法に関連した突然死の数は、偶発的な突然死の数よりも多いか? 2)そうだとすれば、薬物自体が原因なのか、それとも他の要因が直接的原因となっているのか? 3)医療、その他何かしらの条件で、特に高い危険性にさらされる人々が存在するのか?

諮問委員は、研究戦略を探ることよりも、すべての刺激剤(リタリンや、アデロール、コンサータ、メチリン、メタデートなど。ただし、ADHD治療に使用されるもう一つの一般的な薬物ストラテラについては刺激剤ではないとして除外された。)を使う薬物治療に対して「ブラックボックス警告」を速急に適用すべきだと8対7の投票数で決定、勧告した。しかし、FDAは、諮問委員会の勧告に従う義務はないことから、その対応については、慎重になるのではないかというのが大方の見解である。

ADHDの治療に際し、刺激剤は偽薬や他の薬物よりも効果的であるという証拠が豊富にあり、その効果は、幼年期の他のすべての行為障害に対し使用されるいかなるタイプの薬物よりも明白である。

過去50年間に行われた200以上の対照臨床試験において、その中には米国立衛生研究所(NIH)からの資金援助を受けた厳密な大規模長期研究も含まれるが、刺激剤はADHDの子どもの約3分の2に対し明らかな効果があったと報告されている。例えば、医療技術評価研究(MTA Study)の結果、一般的に地域社会で施されている治療でADHDの子どもの25%に効果があったのに対し、行動療法では35%に、リタリンの服用では55%に、リタリンと認知行動療法の組み合わせ治療では65%の子どもに効果があったことがわかった。刺激剤を使った薬物療法では、胃腸不良、頭痛、食欲不振、睡眠障害などの副作用が一般によく知られているが、危険性はないと考えられている。

このように広く使用され、効果的で概して安全性が高いとされている薬物に対し、何故ブラックボックス警告という、劇的で、尋常でないアプローチが勧告されるのか。

諮問委員会の意見は、刺激剤服用の広がりと薬物治療のための刺激剤処方の急速な増加に対する一般社会の懸念を反映しているのではないかと思う。一説によると、現在、12歳の男子の約10%が刺激剤を使った薬物治療を受けている。しかし、過去3年間でもっとも多く刺激剤が処方されたのは大人に対してであり、その増加率は90%だった。様々な事例によって得た仮説として、刺激剤による薬物治療を受けている250万人の子どもすべてが実際にそれを必要としているわけではないということが言える。加えて、通り一遍の精密検査で、あまりにも簡単に薬物療法が施され、最良の結果を得るためには欠かすことのできない「薬物を使わない治療」をせず、投薬観察もあまりにおざなりであることが広く知られている。

製薬業界は、業界が資金を出した試験で得た否定的な結果を隠ぺいし、あの手この手を使って刺激剤の即効性を直接消費者に売り込むばかりで、今回の突然死との関連性の解明に対し何も貢献していない。人口の大部分が刺激剤を使う薬物治療を受けるようになるまで、激しい売り込みを続けるのではないかという気さえする。どんな薬物療法にも精神衛生の専門家にも頼らない「サイエントロジー運動」は、そのような懸念を食い物にし、実際、諮問委員会公聴会で刺激剤に対する否定的な証言の大部分を支えた。

SSRI抗うつ剤に対して「ブラックボックス警告」の表示義務が適用された際にはっきりわかったように、「警告」が適用されれば、薬物治療に使う刺激剤の処方は急速に減少するだろう。精神薬理学の訓練を十分に受けていない初期治療の医師は、ADHDに対する刺激剤療法を行うことに特に慎重になるだろう。刺激剤治療に対する親の不安も高まり、ADHDの診断のための精密検査、治療計画の全般的性質、および薬物療法の潜在的副作用について、今よりももっと疑問を持つようになるだろう。たとえ、「ブラックボックス警告」を適用する危険性が実は大変小さなものであり、コントロール可能であることが判明したとしても、医療行為についてもっと慎重になることや、より多くの情報を患者に提供することから得られるものは多大である。

しかしながら、刺激剤をめぐる問題に科学的に取り組むのではなく、「警告」を出すことで患者を不安にさせる「恐怖戦術」をとれば、うまくはたらけば、人生を大きく変えることになる有効な治療の機会を、多くの子どもから奪うことになるかもしれないというマイナス面もある。今後数カ月間にわたって、子ども達のために正しいことができるかどうか、私達、子どもの精神衛生にかかわる者達の知恵と責任が試されるであろう。


The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter, April 2006
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