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Vol. 22, No. 6, June 2006
音楽が若者の行動に与える影響

音楽が若者の行動に与える影響

ヒップホップ、ラップ音楽を聴く若者は、カントリー、ウェスタン、あるいは「アメリカントップ40」に登場するような音楽を聴いている若者に比べて、薬物乱用に陥ったり、攻撃的な行動をとったりする可能性が高いようだ。国立アルコール乱用・アルコール中毒研究所の財政支援を受けた最近の研究によると、若者が、暴力や薬物乱用に関係した歌詞がよく出てくる音楽に頻繁に接している頻度と、違法ドラッグの服用、アルコールや攻撃的な態度にからむ問題とには明白な相関関係が見られた。レゲエやテクノ音楽を聴く若者と飲酒・違法ドラッグの服用との関係にも正の相関関係が見られた。

流行のヒップホップやラップのアーティストを起用してアルコール飲料を宣伝する現在のマーケティング戦略に対し、研究は疑問を投げかけている。太平洋調査・評価研究所 (The Pacific Institute for Research and Evaluation: PIRE) でこの研究を率いたメンジン・チェン博士は、「ラップやヒップホップのリスナーがからんだアルコールやドラッグの問題、攻撃的な態度を踏まえて、ヒップホップをアルコール飲料の宣伝に用いることに、人々は慎重であるべきだ。」と語っている。ヒップホップやラップが現在の若者に人気であることを考えるとなおのこと、見逃してはいけない問題であるとしている。

チェン博士と彼のチームは、ラップやヒップホップのメッセージは、既にそういう傾向のある若者の音楽の好みを反映しており、そうした若者の薬物乱用や暴力に対する傾倒に拍車をかけているとしている。研究は15歳から25歳(平均年齢18.9歳、21歳未満が86%、女性が57%、非白人が62%)のカリフォルニアのコミュニティーカレッジの学生を対象とした自己回答のアンケート調査で、1,056人から回答を得た。この研究に参加した学生たちは、20ドルの報酬を得ている。

回答者は以下の行為をする頻度を尋ねられた。
(a)15に分類された音楽の鑑賞頻度
(b)飲酒頻度とアルコール障害確認テストによるアルコール障害度(Alcohol Use Disorders Identification Test/AUDIT; Babor et al., 2001)
(c)マリファナやクラブドラッグ1)(ナイトクラブ等で用いられる薬物全般)などの違法薬物乱用頻度
(d)攻撃的態度(殴り合い、グループ同士の喧嘩、小競り合い、銃やナイフによる脅し、相手をひどく傷つける意図をもった攻撃など)の頻度
(e)Zuckerman-Kahlman Personality Questionnaire(性格についての質問表) を用いた興奮/刺激追及頻度(パーティーなどでのどんちゃん騒ぎ、楽しみのために狂気じみたことをする、危険なことをする、ポルノ映画を観る、衝動的な行動などの頻度)

人口統計学的変数には、年齢、性別、人種/民族、入学時の立場、就業状態、親の教育レベルなどが含まれている。

ほとんどの回答者(94%)が毎日あるいはほぼ毎日音楽を聴いており、このサンプルで一番人気の高かった音楽ジャンルはラップだった。飲酒の頻度は、ヘビーメタル、オルタナティブ・ミュージック2)、パンク、ラップ、R&B、レゲエ、ロック、テクノを聴く頻度と明らかな正の相関関係があることがわかった(p<0.01)が、ワールドミュージックを聴く頻度とは明らかな負の相関関係があった(p<0.01)。

他の音楽ジャンルと比較すると、人口統計上の変数、別のジャンルの音楽の鑑賞と刺激の追求についてコントロールした後でも、ラップは一貫して、飲酒、モルト飲料摂取、アルコール障害にかかっている可能性の高さ、マリファナ、クラブドラッグの乱用、攻撃的な行動と一貫して正の相関関係にあった。

薬物乱用や攻撃的な行動と負の相関関係にある音楽のジャンルもあり、ワールドミュージック3) を聴く人は飲酒、マリファナ乱用の率が低く、カントリー、ウェスタンミュージックを聴く人はクラブドラッグの乱用、ロック音楽を聴く人は攻撃的行動が少なかった。しかしながら負の相関関係は正の相関関係よりも一貫性が弱く、すべての項目でリスクが低いワールドミュージックをよく聴いているのは、対象学生の10人に1人にすぎないと研究者たちは慎重な態度をとっている。そのため、あるタイプの音楽を聴くことが、若者の問題行動の少なさにつながると考えるのは飛躍しすぎであろう。

飲酒とマリファナ乱用は他の人種に比べて、変数を考慮にいれたとしてもアジア系の学生が一番少なかった。アジア系の学生は、白人やラテン系に比べてテクノミュージックを好む傾向にあった(白人の24%、ラテン系の36%に対し、アジア系は42%)。ラップ音楽も聴いていたが(白人の64%、ラテン系の70%と比較してアジア系は65%)、薬物乱用に陥る可能性が低いことは明白だった。研究者たちは、「薬物乱用に関して、アジア系アメリカ人をそのリスクから遠ざけている要因があるのか、その要因は薬物乱用と音楽の好みの関連性も低めるものであるか、さらに研究する必要がある。」と述べている。

黒人学生で報告された薬物乱用の程度は、アジア系以外の学生たちと同じであったが、黒人学生は、他の統制変数を考慮した後でも、暴力的行動をとる傾向が明らかに高かった。今回の研究では取り上げなかったが、過去の研究においても(e.g., Barongan et al., 1995; Johnson et al., 1995; Wester et al., 1997)、ギャングスターラップで表現されている攻撃は女性、特に黒人の女性に向けられていると指摘されていると、研究者は語っている。

この研究の限界の一つとして、回答者が、ジャンル別の音楽を聴く時間の長さ、歌詞に払う注意、好みの音楽に対する優先度の程度について尋ねられていないことがあげられる。回答者は一つ以上の音楽を聴いていたので、行動に及ぼした様々な影響を的確に推定することは不可能であると研究者たちは述べている。このサンプルが、すべてのコミュニティーカレッジの学生を代表するものではなく、サンプルの多くを非白人が占めているという事実もまたこの研究結果の限界となっている。

「私たちは、音楽の好みと行動の関連性を充分に解明したわけではないが、薬物乱用や暴力行為に向かわせるような歌詞に頻繁に曝露されると、若者は影響を受けやすいということが、この研究から言える。」とメンジン・チェン博士は述べている。

注 1)エクスタシー(methyl-enedioxymethamphetine [MDMA])、液体エクスタシー(gamma hydroxybutyrate [GHB])、スペシャルK(ケタミン/ketamine; amphetamines and methamphetamines [いわゆるクリスタル、アイス、スピード])、幻覚剤(lysergic acid diethylamide [LSD], マジックキノコ、フェンシクリジン(phencyclidine [PCP])など

Chen M-J, Miller BA, Grube JW, et al.: Music, substance use, and aggression. J Stud Alcohol 2006; 67(3):373-381

訳注
2) オルタナティブ・ミュージック (alternative music) は、1980年代初期のアメリカで大学の校内ラジオ(カレッジ・ラジオ)で流されていた様な、メインストリームに依存しない主にロックを中心としたヒップなポピュラー音楽の総称である。 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
3) ワールド・ミュージック (World music) は、クラシック音楽・ポピュラー音楽(ジャズ、ロック、etc)のように、世界的に広く愛聴されている音楽に対して、地域(あるいは民族)的に愛聴されているが、世界的に愛好者・演奏者が広まっているわけでもない多くの音楽を総称して指す言葉である。特定の音楽のジャンルを指す言葉ではない。出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter, June 2006
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