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Vol. 20, No. 2, February 2004
1. 危険な行動がもたらす死を防ぐ

危険な行動がもたらす死を防ぐ

ルイス・P・リップシット

 今日、アメリカの若者が偶発的な事故で死亡する数は、病死者の数を上まわる。これは合衆国疾病予防管理センターのデータから明らかである。我々の社会では、あらゆる病気による死者の数よりも事故、自殺、殺人、喫煙、薬物使用、過剰な飲酒、いじめなどによる死者の数の方が多い。
 「先進」社会では、子どもや若者の死や障害の大半は、危険を犯すような行動、スリルを求める行動、また怒りによる行動が原因である。皮肉なことに、主な死因は病原菌や病気ではなく、行動なのである。衛生管理や集団予防接種などの医療や公衆衛生の進歩により感染症は激減した。いまや我々は次の段階に立ち向かわなくてはならない。精神的原因による死や重度障害である。
 初期には、行動科学や発達科学の応用が、誘惑に弱い人々の喫煙の減少、アルコールや薬物使用の制限、いじめの抑制、あるいは不良少年が不幸な結末に陥らないように手助けするなどのことに成果を上げてきたかのように見えた。
 最近ブラウン大学で大々的に開催されたシンポジウムでは、行動からくる事故が因果関係の面から取り上げられた。他人を殺すことは、学校に通う、ボーイスカウトに入る、または配偶者を選ぶといったことと同じように、人々が普通に行う行為となってきている。選択に基づく危険な行動を理解するために、科学と臨床家は協力すべきである。
 人々は時に我々が予期しない行動をとるが、これは自然の英知に逆らうものではない。行動上の出来事でさえも、自然の摂理にかなっているものである。ニュートンの重力の法則が議論の余地がないほど確固としたものでないとしたら、我々は次々と地球からこぼれ落ちていることになるだろう。行動の法則もまた常に有効だが、他のすべての科学領域と同様にこの領域での我々の知識は常に不完全であるといえる。
 過去において、幸運にもパスツールやソークなどの科学者が我々の無知を正すのに貢献してくれてきた。科学の専門知識は、橋を架け、航空機を設計して飛行させ、疾病に対する免疫力をつけてくれた。現在我々が必要としているのは、行動科学における更なる専門知識であり、我々の知っていることを応用して行動上の事故に対処することである。
 人間に害を与える状況を理解しこれを防ぐには、行動は行き当たりばったりで予測不能だという旧い考えを捨て去らねばならない。我々は環境の単なる犠牲者ではない。人間は常に環境や他の人々と相互に作用している。
 人類の歴史のこの段階で、人間の根源や本質について我々の知識がこんなにも限られていることは、受け入れがたい。物理学や化学を合わせたほど強力な人間の行動に関する学問をつくりだすための努力をしなくてはならない。
 行動やその根源をそこまでよく知ることは不可能だという人もいれば、可能だと信じているが、行動を知りすぎることはプライバシーの侵害につながると考える人もいる。しかし核融合のような物理科学の産物は、我々のプライバシーを大いに侵害している。人間の行動のみがその破壊的な核融合の生起を制御できる。
 行動に関係した統計は、自殺、殺人、事故、過剰飲酒、薬物使用が、現在社会において生命と自由と幸福をおびやかす主たる原因だということをよく映し出している。今、そこに戦争行為とテロリズムを加えねばならない。テロリズムと戦争は社会行動的な状態なのである。
 我々には第二次世界大戦を終らせるために科学者を結集したマンハッタン計画のようなものが必要だ。行動科学におけるマンハッタン計画である。このためには、人間の行動には原因があり、最悪の場合には殺戮にいたるということを認めなければならない。戦争に疲れはてたフランクリン・デラノ・ルーズベルトは、死の前日に行った演説で、我々が差し迫って必要としているものは人間関係についてよく発達した学問だと述べた。
 これは今日さらに緊急に必要となっている。

Lewis P. Lipsitt ブラウン大学心理学・医科学・人間発達学名誉教授は、本ニュースレターを創設した編集者である。2004年、小児心理学に生涯をささげたとしてブロンフェンブレナー賞をアメリカ心理学会発達心理学部門で受賞。

*マンハッタン計画:ドイツやソ連以前に原子爆弾を開発するため1942年6月に開始された米国工兵隊秘密計画。


The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter, February 2004
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