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Vol. 20, No. 4, April 2004
1. 自閉症は蔓延しているか

自閉症は蔓延しているか

ローランド・P・バレット博士

 最近のメディアは、自閉症の“蔓延”に関するニュースを次から次へと頻繁に取り上げ、鳥インフルエンザや狂牛病に対する懸念が高まる中、自閉症のリスクに対しても大衆の間に不安感を広げている。最近の疫学研究のいくつかでも、英国と米国の両国で自閉症の有病率が10倍に増加したとの報告がなされている。以前に比べ明らかに多くの数の子ども達が自閉症だと診断されている議論の余地のない事実に加えて、原因が明確にされていないことが不安感を引き起こしている。「蔓延」という言葉は、重大な関心を呼び起こす手段として使われているようだ。
 自閉症は1943年、カナー(Kanner)により初めて診断された、社会的関係を形成する能力が大きく阻害される神経発達障害である。知覚刺激を意味のある方法で整理、解釈する脳の能力を傷害する神経欠陥から起こると考えられている。その結果、言語とコミュニケーション能力の発達を著しく弱め、大多数のケースで知的成長も阻害する。程度は異なるが、自閉症と診断された人の約75%に精神遅滞があると診断されている。
 自閉症は先天的なものであるが、通常生後15ヶ月から18ヶ月後にはじめて診断がつけられる。診断が遅れるのは、この障害に特有な生物学的マーカーが存在しないからである。自閉症は、障害に特徴的な行動が認められてはじめて診断される。自閉症の診断は、61年前に初めて報告された時以来こうしたやり方で行われてきた。
 独特で多様な行動パターンの認識に基づく診断は、血液検査や画像診断により行われる診断よりも本質的に難しい。検査を用いた診断が決して完全なわけではないが、実験室で障害に特有な生物学的マーカーの存在、不在を判定できる。行動を観察して正確な診断を行うことはそれよりもずっと難しく、とくに複数の異なる障害による行動が重なり合うとき、例えば自閉症と重度の精神遅滞があるときなどは非常に難しい。簡単に言うと、自閉症の生物学的マーカーがないことは、診断の信頼性を低下させ、その結果障害の有病率推定が正確か否かについての疑問を生じさせる。
 これらの技術的な問題をふまえて、最近の自閉症有病率の高まりについて考えられる原因とその説明が多数行われた。遺伝的要因が自閉症で中心的役割を果たすことは認められている。自閉症児のある家族の最高10%で、近親または拡大家族の一員、たとえば兄弟姉妹、いとこ、伯父(叔父),伯母(叔母)などに自閉症がある。しかし遺伝要因だけでは有病率が10倍も増加したことの説明として十分ではない。
 遺伝以外の要因、たとえばサイトメガロウィルス、トキソプラズマ症、フェニールケトン尿症などが、自閉症を引き起こしているのではないかという仮説が古くから立てられている。もっとも最近では、麻疹・おたふく風邪・風疹(MMR)ワクチンやジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)ワクチンの保存剤チメロサールなどの環境毒性物質について研究が行われている。自閉症とMMR接種の時間的傾向についてカリフォルニアで行われた研究は、自閉症の有病率増加(373%)とMMR接種増加(14%)間の相関関係を認めなかった。最近行われた大規模研究は、チメロサールを含有する百日咳ワクチン接種を受けた子どもとチメロサール非含有百日咳ワクチン接種を受けた子どもを比較したが、自閉症のリスクが増えたという事実はみられなかった。
 自閉症有病率が増えていることのもっと単純な説明としては、疫病分類学の変遷が関係している。自閉症の定義を拡大して、アスペルガー障害やその他広汎性発達障害などのいわゆる自閉症領域障害を含めると、有病率を明らかに増加させる結果となる。2003年に行われた入念な調査では、自閉症の基準を拡大して自閉症領域障害全般を含めたところ、おなじ母集団での有病率が300%増加したことが示された。
 この説明に対して批判的な人たちは、自閉症の定義を拡大して自閉症領域障害を含めたことによって有病率増加が観察されたことは認めるが、これがすべてではないという。これは正しいかも知れない。影響するいくつかの原因が他にもあって、有病率増加という結果に寄与しているという可能性もかなり高い。たとえば、子どものメンタルヘルス専門家に対する訓練の進歩が自閉症領域内障害の認知をふやし、その結果診断の頻度が増えた、などが挙げられる。さらに自閉症領域障害について親の認識が深まり、その結果セカンド・オピニオンの回数が増え、診断の見落としが少なくなった。親の主張を伝えるアドボカシー運動が、1991年に連邦政府基金による特別教育サービスの対象に自閉症を加える変更につながり、慎重で正確な診断を受けようという親の動機を強くした。
 以上のように、環境中に証明されている病原がないことから、慎重な結論としては、疫病分類の変遷、専門家に対する訓練の改善、親の情報が増えたこと、公共政策の変更などが協働して、自閉症領域障害の診断を改善したと考えられる。過小診断や誤診はいまでは是正されている。今我々に残された課題は、より適正な治療サービスを増やす計画とそのための資金獲得、又過去において自閉症が認定されず治療を受けられなかった非常に多くの人々がいたという忘れがたい事実に対して如何に対処していくかということだろう。


The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter, April 2004
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