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Vol. 20, No. 11, November 2004
1. FDAはSSRIによる自殺のリスクを単純化しすぎている

FDAはSSRIによる自殺のリスクを単純化しすぎている

グレゴリー・K・フリッツ 医学博士、編集長

 若者による選択的セロトニン再取込阻害薬(SSRI)使用についての最近の論争ほど全国的な注目を集めた児童や若者の精神衛生に関する問題はない。下院の議案、食品医薬品局(FDA)の聴聞会、全国紙のトップ記事―コンシューマー・レポート誌でさえも親に対する助言をもって論争に参加した。インターネットで検索すると、何千ものウェブサイトが独自の見解や偏見をもって論争の諸局面にかかわっている。報道によれば、マイケル・ムーア監督の次のドキュメンタリー映画は小児科の精神薬理学を取り上げるとのことで、製薬会社は営業社員に対して「野球帽をかぶりマイクを構えた大男が近づいてきたら」どう対処すべきかの訓練を実施しているという。
 私自身も児童・思春期精神医学者として、好むと好まざるとにかかわらずこの論争に巻き込まれている。私は子どもに薬を処方する時はかなり保守的な傾向にある。部長を勤めるブラッドレイ病院の患者では、入院したときと比べると、退院のときは薬の種類も少なく用量も低い処方をもらう。医師が医薬品の売り込みによる不適切な影響を受けることがないように、当病院では製薬会社の営業社員が病院内で医師に会うことを禁じている。医薬品に対してする自分のこうした保守的態度にもかかわらず、「ブラックボックス警告(医薬品警告としてはもっとも厳しい警告)」を子どもと若者のうつ病治療に用いるすべてのSSRIとその他の抗うつ剤に対して適用するというFDAの今回の決定に対しては、愕然としている。このような警告は、薬品を市場から締め出す処置に次ぐ厳しい態勢であり、19歳以下のうつ病患者に対する抗うつ剤の使用を止めさせるかまたは徹底的に控えさせるようにはたらく。現在入手可能なデータからは、抗うつ剤を慎重に処方し、治療を観察することから得られる利益のほうが、これらの薬剤を服用して自殺を引き起こす危険よりもずっと大きいと考える。
 SSRI抗うつ剤の臨床治験に参加した4400人の児童と若者についてFDAの提供したデータを、「非の打ち所のない」専門家委員会が検討し、抗うつ剤服用中に自殺を考えたか、行動を起したのは78人だったという結論を最近発表した。幸運にも自殺傾向と関連した死亡はなかった。委員会は、全体の2−3%にあたる患者のうち、誰に、何故、またどのようにして治療中に自殺のリスクが増えたのかについては確認できなかったが、臨床経験に照らすといくつかの可能性が考えられる。第一に、重症のうつ病患者が回復し始めると自殺を考えるだけでなく行動を起せるだけのエネルギーを持ち始めるため自殺傾向が強くなるという経験をすべての精神科医がしている。第二に、SSRIの不快(だが危険ではない)な副作用はアカシジア(静座不能)であり、じっとしていられないという感覚である。治療初期に現れるこの副作用がうつ病の進行と相俟って何人かの子どもに自殺傾向があらわれたのだろう。投薬は、診断のついていない双極性障害を持つうつ病患者において躁状態を引き起こすこともあり、これが自己破壊行為につながることがある。最後に従来の抗うつ剤とくらべてSSRIの副作用が少ないということが、すべての医師に対して広く喧伝されている。
 プライマリケア医(かかりつけの医師、家庭医:向精神薬の80%までもが彼らによって処方されている)は精神科医とくらべて、抗うつ剤を投与する患者について適切な診断を下し、きめ細かく観察するための訓練をほとんど受けておらず、そのための時間も割いていない。フォローが適切でないと、自殺傾向を含めて認識されていない問題が悪化することがある。また、これらの危険性と同様に重大な問題は、児童や若者がうつ病の治療を受けていないということからくる非常に現実的な危険性である。50万人以上の若者が毎年自殺を図っているが、うつ病がその原因であることが最も多い。子どもがうつ病を発症した場合、学習の遅れ、精神的苦痛、親としての苦悩、これらのすべてをともなう。たしかに治療は可能だが、うつ病は容易ならない問題であり、適切な治療とは心理社会的、生物学的介入の両方を含む。2003年に報告された興味深いパターンでは、SSRIの処方が最近増えた地方では10歳から19歳までの自殺が減ったという。これらの大規模疫学データは関連を指摘するのみで、原因や機序を説明するものではない。しかし、もし投薬が有意に自殺行動を引き起こすとしたら、逆の傾向が予想されるだろう。
 私自身も満足する答えを得ていない最も重要な問題は、児童や若者のうつ病の治療にSSRIがどのくらい効果があるかということである。成人に関する有効性データを子どもたちに不注意に外挿出来ないのは明らかであり、これは、この論争から得られた最も重要な成果の一つと思われる認識である。現存の研究は、SSRIの効能を支持するように見えるが、研究に資金は出すが良くない結果は隠すという製薬業界のやり方が、懐疑主義を生むのも無理はない。メディアが関心を示すことで、次のような結果が出ればと願う。1)抗うつ剤(とその他子どもに使われる向精神薬)の独立した研究のための予算の増額、2)研究結果についての包括的なレポートと、全てのデータの情報開示、3)SSRIの安易な処方を減らし、治療をより注意深くモニターすること、4)児童と思春期専門精神科医の数を増やし、専門化の治療を受けられないことで合併症のある患者の治療の質が低下しないようにする。このような変化は精神疾患を持つ子どもたちにとって本当の意味での大きな利益となるだろう。


The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter, November 2004
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