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Vol. 21, No. 9, September 2005
1. 就学前の幼児の情緒的安定や自制心、社会性を養うことの重要性

就学前の幼児の情緒的安定や自制心、社会性を養うことの重要性

Margaret Paccione-Dyszlewski 博士、John Boekamp 博士

イェール大学子ども学センターが、最近発表した新しい分野といえる研究の結果から、年間1,000人中6人の子どもがプレスクール(アメリカの就学前教育施設)から退園を告げられていることがわかった。この統計によると、年間5,000人の子どもが就学前に落第者というレッテルを貼られていることになる。この退園率は、プレスクールから高校生3年までを通した子どもの退学(退園)率の3倍以上にもおよぶ。

私を含め、深刻な情緒障害や問題行動を抱えている子供と接している者は、この研究結果の根底にあるいくつかの傾向をはっきりと特定することができる。

就学前の学習準備と自制心の育成は、共に、未就学児が成長していくなかで習得していかなければならない重要な課題だということは明らかである。しかし、近年、プレスクールの教育は、学習に力を入れ始めており、社会性や道徳性、情緒面の安定などを養うことをなおざりにしている。じっと座っている、グループで共同作業をする、年齢に応じた意志決定をするなどのために必要な基本的な自制心について、多くのプレスクールで十分教えられていない。だが皮肉にも、ないがしろにされている、このような自制心を養うことこそが、就学後の学業での成功と大いに関わっているのだ!

子どもに読み書きを教えることは大切である。現代の複雑な社会が個々の人々の高い学習能力の上に成り立っているのは明らかである。しかし、それと同様、幼い子どもが情緒的安定や自制心、社会性を習得することが、学習に直接関連しているということも明らかである。

就学前の幼児教育は、子どもの発達を総合的に考えることを基本として確立された。そして、情緒が安定している子どもは、就学後も早くから学習面でよい結果を出し、学校生活にもうまく適応していく、プレスクールの生活で深刻な情緒問題を抱えている子どもは、就学後の学校生活で早いうちから問題を抱える可能性が極めて高いことがわかっている。立ち直る力や精神力を養う学習環境をつくることで、校内暴力、学業不振、少年犯罪、十代の妊娠、孤立、薬物乱用など、あらゆる不健全な行動の原因となる危険因子をかなり食い止めることができる。

プレスクールでの教育を通して、自己の感情を認識しコントロールできるようになること、正しい判断ができるようになること、道徳的に責任ある行動ができるようになること、積極的な人間関係を築けるようになることは、文字、数字、形などを学び、うまく社会に適応できるようになることと同じくらい重要なことである。基本的に、子どもの心理社会的・倫理的・道徳的発達は親の責任であるが、プレスクールや他の教育施設での取り組みも欠かせないものである。教室のなかでは、子ども達は皆同じ年齢であるため、他の子どもと一緒に学ぶことは、家族のなかでの学びと幾分異なる。良好な友人関係を築くなどの友人との関わりは、子ども達の健全な発育に不可欠である。子どもに情緒的・社会的影響を与えるのは親だけではないし、親だけであるべきではない。

もう一つの問題の傾向は、権威主義的な子育て法がもてはやされているという現状である。こうした子育て法は、一部の政治団体および宗教倫理団体から圧倒的な支持を受けており、体罰や絶対主義で子どもをコントロールすることなどを特徴としている。しかし、これに反して、子どもが学習面でも成功し、学校生活をうまくやっていくためには、健全な発育や立ち直りの力を促す子育て法が最良であるという証拠が多数存在している。

そのような子育て法として挙げられるのは、子どもの発達を見守ること、子どもの個性を引き出すこと、失敗に対して前向きな姿勢を促すことなどである。優しさと思いやりや配慮に満ち、それでいて、確固たる信念に基づいた子育てによって、子どもは長期にわたって学校生活をうまく過ごしていくことができるようになる。また、このような姿勢を基本とする子育ては、文化による違いがあったとしても、良好な効果をもたらすということがわかっている。

プレスクールで、情操能力や道徳、社会能力、自制心などを教えることよりも、学習を優先させることの代償は何か?プレスクールや就学直後の学校生活への不適応がもたらす甚大な危険性として挙げられるのは、第一に、一度落第した子どもは落第を繰り返しやすいという点である。また、プレスクールから退園させられた子どもは、たとえ退園後に特別な教育支援を受けることができたとしても、落第者のレッテルを貼られたまま、その後の学校復帰へ向けて、さまざまな困難に立ち向かわなければならない。このような子ども達は、多くの場合、次に通う学校で集中補習授業を受けることになるため、さらに教育費がかかることにもなる。

第二に、幼い時期に退学を余儀なくさせられることは、認知能力における子どもの自信に非常に大きな打撃を与える場合がある。そして、学習面で粘り強さがなくなり、自尊心が薄れ、家族や地域社会からも見放されることに繋がりかねない。こうした子供の多くが、社会にうまく適応している仲間達から離れ、学習面での向上心を持たない非行グループの仲間に入ることになる。プレスクールから退園させられたという経験によって、必然的に、その子どもは劣等感を抱き、自分から友達と距離を置くようになるのだ。わが国は、このまま年間5,000人の子供を放置し続けるわけにはいかない。学校からすぐに追い出すのではなく、学業・学校生活が早いうちからうまくいくような対策を立てるべきである。

※ 両著者は、ブラッドリー病院 子供治療プログラムの臨床部長であり、ブラウン大学医学部の臨床学助教授である。


The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter, September 2005
Reproduced with permission of John Wiley & Sons, Inc.
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